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ベンチャー型事業承継とファミリービジネスアドバイザー

FBAA理事 馬場研二

2000年代前半から、経済産業省を中心として大学発ベンチャーの創出など、ベンチャー企業を生み出す支援が広く行われて来ました。しかしその一方で、同族経営の事業承継については、世間の関心を集めたとは言えなかったのではないでしょうか。

そしてその結果、既に皆様ご存知のように、日本全国で420万社ある中小企業のうち、175万社で後継者が不在という、圧倒的な後継者不足と廃業が予想される事態となっています。

私はFBAAで学んだ知識を生かして、経営コンサルタント及びファミリービジネスアドバイザーとして、現在、2つのタイプの経営者の方々の支援をしています。

一つは、60年90年と続く老舗企業の後継経営者の方々への支援です。そしてもう一つは、全く新しいビジネスにチャレンジするベンチャー経営者の方々への支援です。

私のクライアントの老舗の後継者のひとりは、「正直なところ、自分もまっさらなビジネスに挑戦したい」とはっきり言います。せっかく家業を引き受けたものの、余計なしがらみに囚われ、苦労が多いということのようです。

その原因として、社内のいろんな仕事のやり方が時代に合わなくなっており、ひとつひとつ修正する作業に多くの労力を取られているという点があります。

例えば、同じ事業領域で新しく設立されたベンチャー企業と老舗企業が、その新しい事業に取り組もうとした時に何が起こるかというと、

・ゼロから始めるベンチャー企業の方が展開のスピードが速くなってしまう
・老舗では社内の仕組みを現代のやり方に合わせていくことだけで、多くの労力を使ってしまう

特にシニア、ミドル、若手で仕事のやり方、ITツールの使い方などが全然違う。というようなことが起きてしまいます。

一方でベンチャービジネスの経営者は新しいアイデアを持っているものの、会社の信用力や人的ネットワーク、資金調達力などの経営資源が不足し、その点で苦労しています。

FBAAのフェロー数人に聞いても、老舗FBの後継者が新事業にいざ取り組もうとしても、特に40歳以上のシニア社員たちが、新しい事へのチャレンジに抵抗感を示すことを経験しています。

一方で、後継者の側は、従来からの事業を否定的な目で見るため、すべてが古臭く見えてしまう傾向があるようです。従来事業からの知識、経験、ノウハウが、ちょっとした工夫やリフレームによって、新事業にも強力なリソースになることを見落とすケースも多い点に注意が必要となります。

一般的には、ベンチャー企業の経営の方が、リスクが大きくて難しいと捉えられがちですが、実際は、老舗の後継者が時代の変化の波を乗り越えて、新たな要素を付け加えて、既存の事業を存続させていく方がより難易度が高いように思います。

後継者が、古くから行っている事業に新しいビジネスを付け加えることは、起業家がゼロから新しいビジネスを立ち上げるよりも難しい場合が多いのです。そこで近年では「ベンチャー型事業承継」というあり方が勧められています。

「ベンチャー型事業承継」について、近畿経済産業局が、ベンチャー型事業承継の啓発イベントと後継者予備軍を対象にした連続講座を実施している中で、次のように定義しているのでご紹介させてください。

「『ベンチャー型事業承継』とは、経営を新たに引き継ぐ者が先代から受け継ぐ有形・無形の経営資源をベースに、新規事業、業態転換、新市場参入など新たな領域に挑戦することを表す。」

そして、近畿経済産業局によれば、「家業の経営資源があるからこそ生み出せる新たな可能性や、事業承継ならではの苦労や克服に向けた取組を共有する場を設け、若手後継者が新しい取組にチャレンジする機運を醸成します。」という趣旨で今年度からさらなる支援を行ってゆくとのことです。

ベンチャー型事業承継により後継者がスムーズにビジネスを引き継いでいくためには、ファミリービジネスアドバイザーにも、さらなる能力が要求されるようになります。

近年、ファミリービジネスの研究者の中にベンチャービジネスの分野から来ている人が増えているのもそのせいではないかと見ています。

早稲田大学のMBAでファミリービジネスの研究をしている長谷川博和教授もそのような一人です。個人で起業家に投資するベンチャーキャピタルを立ち上げたベンチャービジネス分野の第一人者である長谷川氏が、現在、ファミリービジネスの研究のリーダー的存在になっておられます。

長谷川先生には2017年7月にFBAAの定例セミナーでも講演していただきました。FBAAが目指しているFBアドバイザーの役割と方向性を我々と共有して頂いています。今後とも連携してこの分野を深堀していきたいと願っています。

ファミリービジネスアドバイザーにはベンチャー経営者支援のための単純なアドバイスを超えた、より複雑な経営環境への洞察が求められます。だからこそ、ファミリービジネスアドバイザーが活躍する場面もますます増えていくと思います。

後継者が新しいビジネスにチャレンジできるよう、ファミリービジネスアドバイザーは新しいビジネスの知識を持っていなければいけません。また、古い組織運営のやり方を根本から更新する作業を手伝えるようになる必要があります。

Author Profile

日本ファミリービジネスアドバイザー協会 理事 九州アジア経営研究所 所長 日本MITベンチャーフォーラム 理事 サイバー大学 IT総合学部 教授 経営コンサルタントとして、60年90年と続く老舗企業の後継経営者の方々と、全く新しいビジネスにチャレンジするベンチャー経営者の方々の支援を行っている。
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