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親の七光りは大切な資産

FBAA理事 武井一喜

ファミリネス(ファミリー性)

ファミリー企業がなぜ強い存在であり続けるのか、その理由はさまざまな角度から論じられていますが、その中に創業家の持つ理念や価値観が事業の競争力の源泉になる、という見解があります。

成功するファミリー企業には、その競争力の源泉となるものがあり、創業家にその起源をもつものです。

この創業家が持つ競争優位性の要素のことを「ファミリネス」(ファミリー性、Familiness)と呼んでいます。

正式な定義は、「ファミリー、個人およびビジネス間のシステム相互作用から生じる、企業に固有な資源の束」です。

(※出典 「ファミリービジネス」後藤俊夫)

つまり、ファミリーが関与することで生まれる経営資源の総称です。これはファミリービジネス研究者による造語で、創業家が関与することで生まれる経営資源の総称を示します。

ファミリネスは、創業の精神やファミリーの価値観、文化を根源として、長い年月を通してビジネスの文化や価値観、いわば暗黙知として根付いているもので、一朝一夕に生まれるものではありません。だからこそ、他社にはまねができない、その企業独自の競争力の源泉になるのです。

優秀なファミリービジネスでは、

・顧客第一主義、

・高品質・低コストの追求、

・従業員の長期的な育成、

・長期的な視野、

・ブランド価値向上のたゆまぬ努力、

・市場、顧客に対する強い探究心、

・柔軟な組織運営、

・社内外の高い信頼関係、

・高いコミュニケーション能力など、

創業家が代々大切にしていることが、ビジネスの文化として根付いています。

強いファミリーを築きファミリネスを維持、発展させたファミリー企業は、そのメリットを享受できるようになりますが、これを怠ったファミリー企業は、その特有のシステムが持つファミリーとビジネスの構造的な矛盾点が表出し、衰退の道を進むことになるのです。

私がコンサルティングでかかわった地方のファミリービジネスに、地域で尊敬を集め、そこで働くことが誇りとされる企業があります。地域に対する貢献と地域の人たちを大切にする心がオーナー家の人たち全員に感じられます。

業界が不況の時代にも、オーナー家の経営者たちの血のにじむ努力によって、一人の解雇者も出さずに雇用を守るというファミリーの文化が、社員の意欲を高め、献身的な働きにつながり、この会社の最大の経営資源を生み出しています。

仕事柄、様々な企業を訪問しますが、世代を重ねた会社には、若い企業には感じられない雰囲気があります。挨拶の時の表情、声の発し方、身のこなし、それらの一つ一つが長い年月を重ねて先輩から後輩へ受け継がれ、洗練されてきたものであろうと思います。創業ファミリーの一貫した仕事に対する姿勢や考え方が代々引き継がれた結果として作り出される、企業独自の文化のようなものです。

そのような会社の社長にお会いすると、なるほどこの方の先代、先々代が指導してきた会社だからか、と腑に落ちるものがあります。

ファミリー資本

ファミリー性を生み出すのは、ファミリーの構成員の一人ひとりの能力であり、これはファミリービジネスの財産です。また、ファミリー内の人間関係もファミリー性を高める財産です。

一族が大切にする価値観は、この財産を有効に活かすための基盤です。これらのファミリー性を生み出す財産を「ファミリー資本」という観点で整理してみましょう。

社会的な信用が高いファミリービジネスの一族であれば、新たに起業したときには、そうでない人に比べて有利に信用を得ることができるものです。また、一族の事業のネットワークを、自社のビジネスに活用することも容易です。ファミリービジネスが持つこのような力を「ファミリー資本」と呼んでいます。

ファミリーが持っている、ビジネスに活かすことができる資源のことです。

ファミリー資本は、

1.人的資本(Family Human Capital) 、

2.社会関係資本(Family Social Capital)、

3.財的資本(Family Financial Capital)の

三つの要素からなっています。

1.ファミリーの人的資本

ファミリー性を高める個人の能力、経験、知識、意欲などをファミリーの人的資本と呼びます。

ファミリーの人的資本が高まるほど、ファミリーには選択肢が増え、柔軟性が高まります。直接ビジネスに係わっていない兄弟や配偶者などのファミリーメンバーも、次にあげる社会関係資本が高ければ貴重な経営資源になるのです。

逆に、仕事や事業に対する無責任、リーダーとしての能力不足、経験の少なさなど、否定的な要素は人的負債ということになります。そういうメンバーがいれば、それは、ファミリーとしての負債になっていきます。

2.ファミリーの社会関係資本

ファミリー内の人間関係、ファミリーの持つ文化、ファミリー外とのネットワークなどをファミリーの社会関係資本と呼びます。

ファミリーメンバー同士がどのような係わり方をすべきなのかという、一族の根底にあるモラルが、従業員や顧客などのステークホルダーとの係わり方にも反映するものです。

逆にファミリー内の争いや不信感、兄弟やその配偶者の間のコミュニケーション不全や、従兄弟同士の対立といった人間関係は、明らかに社会関係負債となり、ファミリー資本の価値を低めることになります。

ファミリー内が信頼に満ちた肯定的な関係であるとき、ファミリーが持つ人的資本、財的資本は有効に活かされ、さらに外部の人的、財的資本も事業に呼び込むことにつながります。人的、財的資本は外部から雇い入れ、借り入れることはできますが、ファミリーの社会関係資本だけは呼び込むことができないものなのです。

これこそがファミリービジネスの強味の源泉であります。ファミリーの食卓を囲んでのオープンな対話は、ファミリーとビジネスの価値観、使命感を共有する良い機会です。

「ファミリー会議」は、ファミリーの社会関係資本を維持し、発展させるために有効な方法です。

3.ファミリーの財的資本

事業の資産だけでなく、ファミリーメンバーが持つ現預金、有価証券、不動産などを財的資本と呼びます。肯定的な関係を持つファミリーは財的資産も融通しあうことが多いものです。また、社会的信用が高いファミリーは、外部の財的資産も使いやすいものです。

ファミリービジネスにおける「親の七光り」

ファミリーの社会関係資本は非常に重要なものです。ファミリーの人的資本、財的資本を有効に活かすために、必要不可欠なものだからです。

ファミリー資本が事業にどのように影響しているかを、全米700のファミリービジネスを対象に行った調査があります。ファミリーの社会関係資本が高いほど事業は成功していること、人的、財的資本は事業の短期的成果をもたらす力が強いこと、そして社会的資本はより長期的に働くということが確認されています。

ファミリー内の良い人間関係や、ファミリーと社員の信頼関係は、長期にわたる会社の繁栄のために非常に重要な要素なのです。

私自身の体験ですが、「親子共同就業」の時代や、「世代交代」の時代に、私は父親の人間関係を否定したくなる気持ちがありました。

「親の七光り」と言われたくない、自分の実力で自分の人間関係を作って、周りに自分の能力を認めさせたい、と思う気持ちが強まる結果、祖父や父が築いた人間関係(社会関係資本)を軽視していました。

しかし、「親の七光り」は、ファミリービジネスの社会的信用を高めている重要なファミリー資本である、という観点から見ると、自分の能力を回りに認めさせたい、と焦っていた私の気持ちは、小さなエゴ、と呼ばざるを得ないようなものです。私は、このことに気がつき、先代たちが築いた社会関係資本を感謝して受け止めるまでに、長い時間をかけすぎてしまいました。

ファミリービジネスコンサルタントとして、親の七光りの重要性を次世代の皆さんに伝えていきたいと考えています。

Author Profile

http://www.wellspring.co.jp/

アジアで初のFFIフェロー、日本人初のFFIアドバンスド・ファミリービジネス、ファミリーウエルス・アドバイザー資格認定証保持者。慶応義塾大学経済学部卒。コロンビア大学ビジネススクール経営学修士(MBA)。経済産業省「地域経済におけるファミリービジネスに関する研究会」委員(平成21年度)。キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。’03年、ファミリービジネスコンサルティングのWellSpring設立、代表を務める。ファミリービジネスを対象にコンサルティング・研修・執筆活動を行っている。著書:「同族経営はなぜ3代で潰れるのか?~ファミリービジネス経営論~」:クロスメディア・パブリッシング 他
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