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強く永続するビジネスを育てる「ファミリーの物語」

FBAA理事 武井一喜

山田家の場合

山田産業の山田和夫氏(仮名、60歳)は、父親が創業した会社の2代目社長です。和夫には30年連れ添った妻、来年結婚する予定の長女、大学3年の長男、大学1年の次男があります。

昨年から「山田家勉強会」と称して、年に4回の勉強会を行ってきました。最初の勉強会で、和夫の曽祖父が生まれ育った町へ一家で旅行し、代々食品店を営む曽祖父の実家を訪ね、先祖代々の墓に参りました。

実家では室町時代から続く家系図を見て、町の歴史や先祖の話を聞くことができました。

菩提寺では山田家が寺と長いかかわりを持っていて、多くの寄進を行った良い時代もあり、それができない苦しい時代もあったことを学びました。

墓地には山田姓の墓石が数多く並び、先祖が何世代もこの地に暮らしてきたことを体感しました。

帰り道に、次男が「自分が何者なのか、少しわかった気がする。」と話したことは、和夫をはじめ全員が感じた旅の成果でした。

その後の家族勉強会では、和夫が子供たちに会社の歴史や現在の状況、創業者がどのように起業したか、これまでにどのような危機があったか、その時、社員や取引先にどのように助けられてきたかを話し、妻や子供たちが質問したり感想を述べたりしてきました。

ちょうど会社の50周年に向けて、社史の編纂プロジェクトが始まります。編集者が会社のOBや業界関係者にインタビューに行く際に、長男と次男も同行する予定です。

「山田家勉強会」は、今後、他のファミリービジネス事例の研究、家訓の策定、コミュニケーション能力向上などのテーマで定期的に行う計画です。

和夫は勉強会についてこのように話しています。「きっかけは、子供たちの大学進学のときです。私は父の仕事を間近に見ていて、父の仕事を手伝い、後を継ぐのが自分の役割だと自然に考えていました。息子たちも当然私と同じように考えるだろうと思っていましたが、大学の学部を選ぶ際に、山田産業のことは全く頭になく、大企業への就職に有利そうな学部を選んでいる様子でした。

家内も息子たちを後継者にすることを全く考えておらず、私はショックでした。夫婦の意思疎通ができていなかったことにも気づきました。

私の子供のころと違い、会社と自宅は離れた場所にあり、社員と家族の接点は私しかいない。このような状況で、子供たちに私と同じ考えを期待する方が間違っていると気づいたのです。

勉強会を始めるにあたり、家内や子供たちに山田家の一員であることを改めて考えてほしいと思い、我が家のルーツを巡る旅行を企画しました。私自身もそうでしたが、家内や子供たちにも山田家の再発見の良い機会になりました。

この旅行以来、先祖のことや代々の仕事のこと、そして山田家の一員であることに、子供達は誇りを持つようになったと感じています。」

創業ファミリーの結束が事業の永続を支え、長寿企業となる

ファミリービジネス(同族企業)のオーナー家にとって、家族、親族の結束は事業の存続にかかわる重要な課題です。兄弟、親族で事業にかかわる場合や、一族で会社の株式を持っているような場合には、ファミリーの結束が重要であることに異議を唱える人はないでしょう。

しかし、たとえ父親と息子だけが同族メンバーで、それ以外の家族は別の会社に勤めている場合であっても、子、孫の世代まで視野に入れた場合には、ファミリーの結束は事業の永続に大きく関係していると言えます。

例えば先代の持つ株をどのように次世代に渡すのか。一族が結束し、株を持つことの責任感を共有していなければ、子供たちは個人や自分の世帯だけの利益を主張することになりかねません。

 会社を守り、会社に活力を与えるという責任感を持って結束するファミリーは、会社の永続のための重要な守護者となることができるのです。

これは必ずしも個人の幸福を犠牲にしてファミリー全体のために尽くせ、ということではありません。むしろ、人生の目標を大切にし、自分の人生を生きる自立した個人が集まり、ファミリーとしての歴史や価値観や目標を共有して初めて、世代を超えた事業の永続性が実現できるという考えです。

 個人の犠牲のもとに成り立つファミリービジネスは、短期的な成果を得ることができるでしょうが、いずれ破たんすることは想像に難くありません。長期的に、次世代、次々世代にわたるファミリーとビジネスの持続性は持ちえません。

「ファミリーの物語」がファミリーの結束を高め、強いビジネスを作る

多くのファミリービジネスに助言している米国の弁護士、ジェームズ・ヒューズ氏は、

「ファミリーの物語は、メンバーの一人ひとりを繋ぐ接着剤のような役割を果たします。私が知る限り、数世代にわたって成功しているすべてのファミリービジネスで、ファミリーが集まると必ず自分たちの歴史について話し合う時間を設けています。」

と言っています。

家族の歴史を学び、次世代に伝えていくことは、ファミリーの物語を語り継ぐことです。

先祖代々の営みや、それぞれの時代の先人の苦労、互いに助け、助けられた出来事、その過程で守ってきた信念や価値観を学び、自分たちもその大きな物語の一員として参加していることを知るのです。

さらに物語は子供や孫に続いていくものとなり、将来にわたりファミリービジネスを支える大きな力となります。

手始めに、夕食のテーブルで先祖の歴史を話してみてはいかがでしょうか。

Author Profile

http://www.wellspring.co.jp/

アジアで初のFFIフェロー、日本人初のFFIアドバンスド・ファミリービジネス、ファミリーウエルス・アドバイザー資格認定証保持者。慶応義塾大学経済学部卒。コロンビア大学ビジネススクール経営学修士(MBA)。経済産業省「地域経済におけるファミリービジネスに関する研究会」委員(平成21年度)。キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。’03年、ファミリービジネスコンサルティングのWellSpring設立、代表を務める。ファミリービジネスを対象にコンサルティング・研修・執筆活動を行っている。著書:「同族経営はなぜ3代で潰れるのか?~ファミリービジネス経営論~」:クロスメディア・パブリッシング 他
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