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老年童話に見る社長退任後の課題

FBAA理事 武井一喜

童話から得られる社長退任の示唆

事業承継が困難である大きな要因に現社長の居座りがあります。

居座りにはいくつもの原因がありますが、その一つに、現社長にとって、引退後の人生に価値を見いだせないという事があります。

後進に道を譲り現場を退いた社長が、その後の充実した人生を歩もうとするとき、童話や神話に出てくる年長者の物語に多くの示唆が得られます。

それは、神話やおとぎ話の英雄物語のヒーローが、後継者から社長へと成長する若者の人生の旅の道しるべを示唆するように、老人童話の主人公は後継者に地位と権限を渡した後の、経営者の人生後半のテーマを提示しています。

「その後いつまでも幸せに暮らしました、で終わるおとぎ話。けれどもお姫様が姑になり、王子様が白髪頭になっても、幸せは続くのか? 永遠の若さを夢見て、美や力の衰えにおびえるとき、老人を主人公とした物語が、魔法と英知をもたらしてくれる。それらは人間の深層に眠った偉大なる可能性を呼び覚ます。」

ユング派精神分析医のアラン・B・チネンは、『成熟のための心理童話』において、このように述べて世界の15の童話から人生の後半を価値あるものにする知恵を読み解いています。

15の童話には、「舌切り雀」、「こぶとりじいさん」、「花咲かじいさん」など5つの日本の童話も含まれています。

第2期ファミリービジネスアドバイザー資格認定プログラムの富士見ユキオ氏、岸原千雅子氏によるセッション、「ファミリーへの支援」でこの本が紹介されました。

若者のための英雄物語においては、天命を聞き、旅の仲間を得、境界線を越えて新たな世界へと進む「旅立ち」、悪魔に出会い戦うことで成長し、新たな自己を発見する「通過儀礼」、成長した人間として宝物を持って故郷に帰り、村を豊かにする「帰還」

という一連の共通するテーマがあります。

このような若者ための英雄物語における課題は、「自己の発見」であるのに対し、チネンは年長者の物語に現れる課題は「自己の超越」であると言います。

また、若者の美徳が勇気、忍耐力、自信であるのに対し、年長者の美徳は機敏さ、寛容さ、好奇心であること、若者の旅では魔女、鬼、龍など目に見える敵に対して剣を振るって戦うのであり、現実の世界でも例えば親と闘うことで独立心を養っていくのに対して、老人は目に見えるような敵と出会うのではなく、内面的な敵に対して長年の経験に基づく洞察や知恵で対処し、さらに敵の攻撃を力で迎え撃つのではなく、敵との間に橋をかけたり、身をかわしたりすることで解決します。

英雄物語も老人童話も、人間の意識の境界を広げるという点において共通していますが、英雄物語においてヒーローは龍や怪物などの擬人化された無意識の力を征服するもので、ヒーローの勝利は理性の勝利です。

それに対して年長者は人生の経験の基礎を解明し、深めます。

若者は人間性の花を目指すのに対して、年長者は人間の心の内部から伸びた根を豊かにし、そこに蓄えられた人間の精神の最も崇高な力を志向します。

人生後半の8つの課題

チネンは老人童話から見出される、人生後半の8つの課題を解説します。

(1)喪失の現実を受容。

苦痛であっても健康、友人、財産、権力などの喪失を受け入れることで、古い習慣を打ち破り、予想外の発達への道が開ける。そのプロセスで無意識に入り込み、若いころは耐えがたかった心理的な課題と取り組む。年齢と経験が昔の恐怖に対決する新たな力を与えてくれる。

(2)自己対決と自己改革。

年をとることへの屈辱に対する怒り、喪失から立ち直れない絶望、人生にさらに多くを望む欲望などの人間性の暗い面、自分自身のシャドウと対決すること。

(3)知恵の創造。

自己対決とは悪を理解することであり、それによって心理的な洞察に基づいた、説得力があり現実社会に応用できる知恵が生まれる。それは若いころの執着から距離を置き、人間性の理解からくる深い洞察に基づくもので、強力な敵から自分を守り、後半の人生のストレスに適応させてくれるものになる。

(4)自己超越。

若者を支配している個人的野心や夢から自由になること。前半の人生の焦点は自己を確立することだが、後半の人生は苦労して手に入れた自己を捨てることにある。これまで得た力、忍耐、知恵で、個人を超えた願望に取り組み、より高次元の自我、社会、神が自我にとって代わる。

(5)社会的規範からの解放。

子供時代の無垢な自然さを取り戻し、成熟した判断力と結びつく。魂の自然の声に耳を傾け、ありのままに自分の人生を肯定することができる。

(6)解放された無垢の開花。

世界を驚嘆と歓喜と共に見ることができる。

(7)次世代の支援。

後半の人生の超越的インスピレーションを受け入れ、それを次の世代を助けるために用いる指導者としての役割であり、この世と来世を結ぶものになる。若者が精神的な啓示と人間社会の実際的な需要とのバランスを取る手助けをする。

(8)知恵と無垢と実用主義と魔法の統合。

老年童話に現れる魔法は肉体的、物質的なだけでなく、心理的、精神的なものである。知恵、無垢、実用主義、魔法の統合により、人生の最後は最初になり、終わりは再生され修復された始まりとなる。

これらの課題を成就することで、チネンはただの「老いた人」ではなく成熟した「年長者」となることを提案しています。

それは戦いや探求よりは媒介やコミュニケーションを重視し、剣を振り上げるのではなく橋を架ける役割です。

さらに、「社会はヒーローと年長者の両方を必要とする」としています。

引退後の経営者の理想的な生き方をここに見出すことができるのではないでしょうか。

Author Profile

http://www.wellspring.co.jp/

アジアで初のFFIフェロー、日本人初のFFIアドバンスド・ファミリービジネス、ファミリーウエルス・アドバイザー資格認定証保持者。慶応義塾大学経済学部卒。コロンビア大学ビジネススクール経営学修士(MBA)。経済産業省「地域経済におけるファミリービジネスに関する研究会」委員(平成21年度)。キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。’03年、ファミリービジネスコンサルティングのWellSpring設立、代表を務める。ファミリービジネスを対象にコンサルティング・研修・執筆活動を行っている。著書:「同族経営はなぜ3代で潰れるのか?~ファミリービジネス経営論~」:クロスメディア・パブリッシング 他
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