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同族経営から同志経営へ ~企業の永続性に向けたアプローチ 〜

日本ファミリービジネスアドバイザー協会

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近代資本主義は、株主(プリンシパル)と取締役(エージェント)が信用を媒介として、分離していくことで形成されたという考え方があります。

オーナーが全てを見きれる経営の間はオーナー経営者として「プリンシパルにしてエージェント」という一人二役をやっているけれども、どんどん会社が大きくなるにつれてプリンシパルとエージェントが分離して、最終的に分化する。そしてプリンシパルとエージェントが、それぞれプロのプリンシパルとプロのエージェントになる、ということです。

これは、あまりファミリービジネス研究の世界では好まれない考え方のようですが、私はこうした考え方は筋道としては間違ってないと思います。

オーナー経営者サイドから見ると、結局企業経営を1人で全部見きることが出来るのか、それとも組織の力を借りて見きるようにするのかという、2つの方向性があるのだと思います。社長ひとりで全てを見きれるなら良いのですが、それができないんであれば組織の力を借りて見きれるようにしなけりゃいけない。

そのためには、きちんと正しい情報が上がっていく、経営判断に必要な情報が上がってくるという、誠実で信頼できる組織を作らないといけないということなのです。

 

渋沢栄一はこのことをエージェントサイドの視点から次のように言っています。

「資本を活用する資格とは何であるか。それは信用である。世に立ち、大いに活動せんとする者は、資本を造るよりも、まず信用の厚い人たるべく心掛けねばならない」。

株主からお金を預かって取締役や役員がエージェントとして仕事をしていく時には、信頼されるように努めねばならないと言っているのです。

先程、自律と信頼が同志経営の鍵だと言いましたが、実はエージェント側にとっては、信頼を確立するために誠実や規律を重んじて株主側からの信頼を守るように努めなければいけない。一方、オーナーというのはとかく人が信じられなくなるということがあります。

経営者の職業病のようなものだと思いますが、オーナー経営者サイドもそれを克服して人や組織を信じることが必要です。ファミリービジネスでは「信じ難きを信じなければならない」というのがまずオーナー側の課題なのです。

 

ところで、オーナー経営者とりわけ創業者、創業型の経営者というのは、「狂」つまり多少クレイジーじゃないといい仕事ができないという側面があるように思います。

福沢諭吉は、情欲という言葉を使いました。「強い情欲がない人間は大成できない。また大きな事業もできない」と。

言い方を替えると、ファミリービジネスオーナーの大事な仕事、ファミリービジネスオーナーならではの仕事とは、「人を喜ばす道楽」をすることだというふうに感じます。

私の父(※赤福十代目当主・浜田益嗣)が『おかげ横丁』というのを伊勢に造りましたけれども、これは平成5年の式年遷宮の時に出来た施設ですけども、20年経って、ひとつの町がそこに新しくできたと皆さん言ってくださいます。

でも、当初あんなことは道楽だというふうにしか見られなかったのですね。すごいお金をかけていっぱい建物を建てて途方もないことをするなあ、ということでそのように言われたわけですが、20年経ってみるとそれがいかに正しかったか、大きな仕事だったかということがわかっていただけます。

本当に大きな仕事というのは普通の人間から見ると道楽のようにしか見えないことがある。それをやれるのが、ファミリービジネスのオーナー社長であるという側面があるのだと思います。

 

ただし、オーナーの道楽にも良い道楽と悪い道楽があって、最近では大王製紙のバカラ賭博の話とか、あれは悪い道楽ですよね。

オーナー経営者は狂といえども別に神ではありませんので、悪い道楽で暴走してしまうこともある。その時に幹部社員がそれに制動をかけられるかどうかという問題が出てきます。

これは企業のガバナンスの問題でもあります。福沢諭吉が、つぎのように言っています。

「独立とは自分にて自分の身を支配し他によりすがる心なきを言う。みずから物事の理非を弁別して処置を誤ることなき者は、他人の智恵によらざる独立なり」

「独立の気力なき者は必ず人に頼る。頼る者は人を恐れ、恐れる者は人にへつらう」

また、尾崎行雄は、「自尊心があれば上からの命令または指令に盲従などしないであろう。その命令なり指令なりを一応批判して、しかる後にそれに服従すべきか否かを決するに相違ない。権威を外に求めずして、我の内にある権威に目覚めよ」というふうに言っています。

オーナー経営者の言うことに唯々諾々として、他律で仕事をしている人にとってこれは耳に痛い言葉だと思います。ワンマンなオーナー経営者がいる環境の下でも、幹部はやはり自律をしなければいけない。

そもそもサラリーマンは組織の中で他律を受け入れなければいけない存在ですので、自律するというのは大きな壁です。つまり、従業員にとっては「自律し難きを自律しなければいけない」ということが課題になるのです。

 

ここまでのことをまとめますと、同族経営において、経営者は「信じ難きを信じる」という壁を克服せねばならない。そして、従業員の側は「自律し難きを自律する」という壁を克服せねばならない。

同族経営が同志経営に至ろうとする上では、この2つの壁があるのではないかと考えます。まず、この両者双方がこれらの壁を乗り越える気持ちにならねばなりません。

従業員はオーナー経営者に依存、従属し、オーナー経営者も自分の言いなりに従業員を使っているという状態で、変に安定している会社がありますが、そういう同族経営では会社は変わっていかないし進化もしていかないと思います。

この壁を越えなければいけないと両者が感じた時に、会社は同志経営に向かい始めます。それには、壁を越えなければと両者が感じ始めるきっかけがいると思います。

マスヤグループにおいては、それが本家のグループ会社におけるあの大きな不祥事、事件だったというふうに私は感じています。

 

ここからマスヤグループの同志経営に向けた実践の話をご紹介したいと思います。

マスヤグループでは、あの事件をきっかけに、同族経営ではなくて同志経営に向かわなきゃいけないという環境が整いました。まず、何をやったかと申しますと、トップによる価値観の表明です。経営理念の制定ということをやりました。

そしてトップがそこにコミットメントを示すところから全てがスタートしました。価値観、つまり私どもの経営理念は、つぎの3つです。

 

● 一番大切な人に食べさせたい製品を作る。「ものづくりの心」

● 仕事を通して人生の幸福を追求する。「ひとづくりの心」

● 地域社会の豊かさづくりに貢献する。「地域に向ける思い」

 

これ以外に、社是、行動指針、そして「我々が考える良い会社とは」ということを8項目、「我々が考える良い社員とは」ということも8項目、定めました。

これらによってトップと組織がお互いに思いを共有して、こういう価値観に基づいて組織運営をしていきましょうというキックオフをしたわけです。

そういう価値観の表明と並行して、組織への求心力を高める社内イベント、コミュニケーションを増やすことにしました。従業員大会を毎年1回。スポーツ大会、社内旅行など含めて、いろいろ始めました。

それから毎朝の朝礼を始めまして、朝礼の中で理念の唱和、理念の共有化を図っております。また、挨拶運動ということで、組織の中で笑顔で挨拶をしようということにも取り組んでおります。

それから、「寄り合い」というものを少人数単位で組織して、仕事の場を離れて月に1回1時間の間、上司と部下じゃなくて人間対人間の関係で1回集まって話合うという機会を設けました。

それから仕事塾は、役員が講師になりまして、自分の経験とかあるいは自分の信じるところを、自分の言葉で従業員に語るということに取り組んでいます。それから、地域企業との対抗運動会とか、レクリエーションをやったり、従業員表彰なども1年に1回やっております。

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