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老舗企業の家訓

FBAAフェロー 平林秀樹

1)老舗の家訓とは

今回は、老舗企業のファミリーに伝わる家訓について考えていきたいと思います。

長く繁栄するファミリービジネスの条件として、「想いを行動に導き、信頼を培う『経営理念、創業の精神の再確立』」が重要であると、西川盛朗著「長く繁栄する同族企業の条件」にも記されています。

そして、この長く繁栄しているファミリービジネスを支えるファミリーにも同様に、「守るべきものとして、その家に伝わる戒めや教え」として、家訓が存在します。

時には、口伝となっているものもありますが、書き記されて「家」に長く伝わり今も「ファミリー」と「ビジネス」の背骨となっている家訓が存在しています。こうした「家訓」について、考えていきたいと思います。

家訓とは、もともと公家や武家が「子孫への戒め」として、その家の当主か書き残して与えたものといわれています。江戸時代になってからは『商家』でも、次の世代に商売をさらに盛り立て、続けていってもらうために「遺訓」「家訓」などとして、子孫に書き残すようになりました。

武家の家訓は、「座右の銘」のようなものも多いのですが、商家の家訓は、「変化の激しい、して武士を中心とした社会の中で家を守り、商売を続けていく工夫の集大成」が記されたものが多いと言われています。

こうした、家訓の中で、「家と商売を継承する人への戒めや教え」として、近江商人の一つ、五個荘商人の2代目中村治兵衛が遺した「宗次郎幼主追書(全13カ条)」の第3条があります。

第3条「自分の一生は次の世代への三十年間の手代・番頭(奉公人当主)」
*自分の一生は、その身代をわが子に渡すまでのたかが30年である。親から譲られた財産を大切にして、自分の子供たちに無事に渡すべきものである。たった30年間の手代や番頭をすると思って、家業に努め、財産を大切にすべきである。(吉田實男「商家の家訓」より)

次の世代につなげていく事を考え、自分の家の事業に真摯に取組み、財産を自分のものとして浪費せず大切にして、自分の時代で工夫したことをまた次につなげていく、この地道な姿勢の積み重ねが、その家とビジネスを繁栄させ、継続していく礎といえます。

この第3条のような内容は、いくつかの「家訓」でもみうけられます。

このように家訓は、ファミリービジネスを支える「家」の背骨をもたらすだけでなく、
そこで育つ「人」の価値観や思いを形成していくことに大きな役割を果たしていきます。
また、家訓はFBAAではおなじみのスリーサークルの構成要素である、ファミリー、オーナーシップ、ビジネスの3つのサブシステムのいずれにも、大きな影響を与えているものではないでしょうか。

2)近江商人の「三方よし」

商売の基本として大変有名な、近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」について考えてみたいと思います。

この「三方よし」という言葉は、五個荘商人(近江商人)二代目の中村治兵衛の家訓第八条にある『(行商の心構え)ただ、そのいく先の人を大切に思うべく候』

からきていると言われています。(なお、中村治兵衛の家訓は全部で13条あるそうです)

江戸時代の近江商人は、他国へ行商にでかけ、自分が持参した商品で、その国の人々に商いをしていました。当時、他国へ入り商売をすることは、追放されるなど多くのリスクと隣り合わせでした。こうした中、その国の人と馴染みになり、地盤を築き、腰を落ち着け商売を続けていくという、長期にわたる商売を展開していたのです。

この商売で成功をおさめた中村治兵衛は、代々商売を続けていくために、家訓の中に「行商の心構え」としてその言葉を残したのです。

『ただ、そのいく先の人を大切に思うべく候』

商いは、一定の利益が出なければその「商売」は存続できません。しかし、自分の利益のためだけに「商売」してしまい、お客様が評価してくれなければ商いは継続できないのです。

さらに、他国での商売ですから、地域の方々に貢献しなければ、地域の方々に嫌われ、その地を追われてしまい、自分の居場所をあっという間に失ってしまうのです。

家訓では、この言葉の趣旨として「商いは自分の利益の為ではなく、全ての人に満足してもらうことだと考え、他国への商いに出かける場合は、行商先の他国の人々を大切に思って商売すること」(簡略)とあるのです。

この家訓の趣旨を、現代の研究者が「売り手よし、買い手よし、世間よし」と解釈したのです。今の時代でも、日本企業のCS経営やグローバル化した企業活動にも大きな影響を与えているのではないでしょうか。

家訓が、商売の仕方に大きく影響与え、江戸時代から今に脈々と続いていく。
家訓の持つ「問い掛け」は、自社の「仕事の仕方」「社員の姿勢」に大きな影響を与えていくものです。

ファミリービジネスを展開しているオーナー家は、もう一度、我家に言い伝えられている「言葉・物語」を見直してみると良いのではないでしょうか。その言葉に「継続、飛躍」のヒントが隠されているかもしれません。

Author Profile

http://www.grasty.jp

ファミリービジネス、人的資源開発のコンサルティング会社である株式会社グラスティ 代表取締役。慶應義塾大学工学部卒業後、(株)リクルート入社。同社では、企業の現場の「知恵の共有」「暗黙知の形式知化」に早くから着目。「社会人育成」の視点でプログラムを多数開発。さらに経営改革に取組むなか、企業理念策定や理念の共有活動の設計、推進も行う。06年にグラスティを設立。「理念と経営と人財がリンクした人的資源開発」を中心としたコンサルティングを実施。理念実現のための幹部育成や組織活性化など取組む。10年からFB研究を後継者や幹部育成、家訓研究など多岐にわたり取り組んでいる。 現在、一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)
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